2022年に読んだ本

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2021年はこちら

小野圭次郎 「英文解釈研究法:小野圭の英語」

かつての大ヒット英語参考書とはいえど、内容薄くない?現代においては役割を終えているような気がする。好きな人が読む分には全く構わないけど。

ジョン・バロウズ(原書監修)、芳野靖夫(日本語版監修) 「クラシック作曲家大全―より深く楽しむために」

音楽の教科書を翻訳しようとして挫折した。そこで自分の中で折り合いをつけるために手に取った。クラシック音楽の流れと大体の作曲家の意義の軽重の見当をつけるのには役立つ。あと、この本からの流れでCD数百枚分くらいの音源を聴いたけど、何かを得た感じは少なかったかな。

Jennifer Hasty, David G. Lewis, Marjorie M. Snipes “Introduction to Anthropology”

以前翻訳した人類学の教科書は各章が玉石混交といった感じだったので、ある程度統制が取れているOpenstaxのこちらのほうを訳したほうがよかったかなと思いつつ読み始めてみたものの、こちらも結構著者たちのイデオロギーが入り込んでいる印象を受けるので、うーん、ちょっと困るかな。全体としてはそれなりのレベルで整っている教科書なので、誰か翻訳すればそれなりの役割はあると思う。私はやりません。

Toby Ord “The Precipice : Existential Risk and the Future of Humanity”

人類がこの先100年の間に絶滅する、あるいは文明が回復不可能な形で崩壊するリスクである「存在に関わるリスク(Existential Risk)」(絶滅リスクとか存在リスクとか言われることもある)を真正面から取り扱った本。自然のリスク・人為的なリスク・未来のリスクを合わせると100年以内に人類が絶滅する、あるいは文明が回復不可能な形で崩壊する可能性が6分の1程度ではないかと著者は推定する。ただし、別にそれで混乱を撒き散らすことが目的であったり、悲観的になったりするわけでもなく、もしこの「崖っぷち(The Precipice)」の時代を私たちがうまく乗り越えることができれば、人類には壮大な未来(時間の上でも、規模の上でも)が待っているという希望を描いている。

Tom Brady “The TB12 Method”

NFLの伝説的な選手トム・ブレイディが自身の体のケア・トレーニング方法・食事等をまとめた1冊。ブレイディが好きなわけではないが参考として手に取った。「プライアビリティー(しなやかさ)」という目標を持って、筋肉を長く、やわらかく、整った状態にしましょうというお話に終始する。

Benjamin Todd and the 80,000 Hours team “80,000 Hours : Find a fulfilling career that does good”

読んだというか翻訳した。8万時間というのは、人がキャリアの中で過ごす時間のこと。その時間の中で、世界の最も差し迫った問題に対して前進を遂げるとともに、自らも充実感を持って働くために何をすべきかを指南する。少しでも良い世界になりますように、という祈り(というと大仰なので、希望くらい)を込めて公開している。

Brian Christian “The Alignment Problem”

上記の存在に関わるリスクの1つとして取り上げられることのあるAIのアラインメント問題。これは、AIが下す判断や実行する動作が人間の目的や価値観と整合(アライン)しているかというもので、これがうまくいっていないと困った事態が生じ得る。この本では、それに対してAIの開発者がどう対応しているかを調査している。想像していたよりも倫理的な検討が少なくて(最後のほうに少しだけあるが)、大部分がAIのうまくいかなかった事例集とその対応策みたいになっているので、割とすぐに陳腐化しそうな本ではあるのだけど、アラインメント問題自体は重要なので、この概念の入門書としては意味のある1冊だと思う。

Fareed Zakaria “In Defense of a Liberal Education”

以前ファリード・ザカリアの卒業式スピーチを訳したが、これはその内容を敷衍した本。彼のインドでの幼少時代を描く部分などはノスタルジー満載で好きなのだが、リベラル教育を擁護する段になると通り一遍の議論に感じる。まあ、今ではそれすら口に出す人が少ないから、きちんと主張しておくことはそれなりに大切ではあるんでしょう。

William MacAskill “What We Owe the Future”

人類の未来が時間・規模において広大であるならば、いま私たちがするべきことは何なのかを見定めようという内容の本。効果的な利他主義の首魁の一人マッカスキルが長期的な未来を重要視するロングターミズム(Longtermism)にしっかりと取り組んで、記述している。人口倫理学の分野は聞き覚えがなく、この本の中での入門編が役に立った。大切な本だし、そのうち翻訳も出るでしょう。

Julia Galef “The scout mindset : why some people see things clearly and others don’t”

知能と合理性は別物なので、知能を上げるのはちょっと難しいにしても、合理的に考える能力は訓練次第でそれなりに向上させることができる。では、その合理的な思考を身に着けるにはどうしたらいいかを教えてくれる本がこれ。著者のジュリア・ガレフという名前に引っかかったんだけど、それがなぜかを思い出せなくて調べてみたら、彼女がやっていたポッドキャスト「Rationally Speaking」をずっと前に聞いていたことがあった。なぜ知ったのか、いつ聞き始めたのか、いつやめたのか、はまったく覚えていない。この本の日本語訳が『マッピング思考:人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』という題名で出ているけれども、原書の中には「mapping」という単語は一度も出てこないんだよね。「Scout mindset(斥候の心構え)」としてmap(地図)を正確に描けという話はあるんだけどさ。そういうところがあると「翻訳だいじょうぶ?」って思ってしまう。

結局、今年1年はろくに翻訳もせず、本も読まずといった感じで、何をやっていたのか。効果的な利他主義、最も差し迫った問題、人類の存在に関わるリスク、ロングターミズムなどの概念の勉強はしていたので、来年はもう少しそのあたりを調べつつ何らかの還元ができたらいいなと考えている。

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